※この記事には映画のネタバレが含まれますので、ご注意ください。
こんにちは、きいこです。
今回は、美術映画ファンにはたまらない傑作、《真珠の耳飾りの少女》(2004年公開)をご紹介します。この作品は、あのフェルメールの名画をモチーフに描かれたフィクション映画で、公開当時、世界的なフェルメールブームにさらなる拍車をかけた一本でした。
ずばり、最高でした!!
まずは、私きいこの個人的評価からどうぞ。
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面白い | ★★★★★ |
感動的 | ★★★ |
勉強になる | ★★ |
映像が綺麗 | ★★★★★ |
音楽が素敵 | ★★★ |
俳優が良い | ★★★★★ |
映画《真珠の耳飾りの少女》とは?
【基本情報】

《真珠の耳飾りの少女》(2004)(原題:Girl with a Pearl Earring)
製作国:イギリス・ルクセンブルク
監督:ピーター・ウェーバー
出演:コリン・ファース、スカーレット・ヨハンソン、トム・ウィルキンソン
受賞:第76回アカデミー賞 撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞3部門ノミネート
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この作品は、1999年にアメリカで出版されたトレイシー・シュヴァリエの小説『真珠の耳飾りの少女』を原作とし、フェルメールの代表作に描かれた少女と画家との間にあったであろう物語を、想像豊かに描いた歴史フィクション映画です。
主演はスカーレット・ヨハンソンとコリン・ファース。二人の静かな演技が、この映画の深い余韻を生み出しています。
アート好き、ヨーロッパ好き、洋画好きの方はもちろん、そうでない方にも心からおすすめできる、珠玉の一作です。
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見どころ1:憧れの1700年代ヨーロッパの世界観
まず最初にお伝えしたい見どころは、なんといっても「1700年代オランダ」の空気をそのまま閉じ込めたような映像美です。
最近では異世界転生もののアニメなどで「中世ヨーロッパ的な世界観」が人気を集めていますが、まさにこの映画の世界観は、そのリアルバージョンといったところ。
もちろん、実際の当時の生活は不便で、治安も悪く、現代日本とは比べものにならないほど厳しい環境だったと思います。でも、だからこそ、遠い過去に思いを馳せるロマンがあるのだと思います。
この映画では、石畳の街並み、蝋燭の灯り、レンガ造りの家々、そして絵の具の香りが漂ってきそうなアトリエの様子まで、丁寧に再現されていて、まるでタイムスリップしたかのような気分にさせてくれます。

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見どころ2:メロドラマが面白すぎる!
本作は、フェルメールの実像に基づきつつも、想像の余地を存分に活かしたフィクション作品です。
主人公は、フェルメールの屋敷に住み込みで働くことになった少女グリート。彼女が、やがてフェルメールのアトリエで働くようになり、少しずつ画家との心の距離が縮まっていく…。
その関係は、はっきりと恋愛と表現されているわけではなく、終始「曖昧なまま」で描かれます。だからこそ観る人の想像をかきたて、見るたびに印象が変わるほどの余韻を残してくれるのです。
グリートとフェルメール、二人の間には「何もない」。でも、視線やしぐさ、空気の揺れの中に、確かに存在する感情のうねり…。
この「語られないことの美しさ」が、この映画の最大の魅力だと思います。
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見どころ3:コリン・ファースとスカーレット・ヨハンソンの圧巻の演技
まずはコリン・ファースが演じる、謎めいたフェルメール像について。

彼が体現するフェルメールは、物静かで多くを語らず、一見すると何を考えているのかわからないような人物です。ですが、その沈黙の中には、理性と情熱、そして芸術家としての自由な魂が同居しており、時折見せる目線や仕草にその深さが垣間見えるのです。
セリフよりも視線や動きで語る演技――これこそ、コリン・ファースの真骨頂。
フェルメールがグリートに抱く感情、絵画に対する信念、そして家族との複雑な関係。そのすべてが明言されることはありませんが、彼の繊細な演技によって、観る者の心にじんわりと届いてきます。
一方、スカーレット・ヨハンソン演じるグリートの存在感も圧倒的です。

当時18歳という若さながら、あの名画《真珠の耳飾りの少女》の静謐で神秘的な美しさを、そのままスクリーンに再現してくれました。
召使としてフェルメール家にやってきたグリートは、世間知らずでありながらも、繊細で芯のある少女。大人たちの思惑に翻弄されながらも、純粋なまなざしとまっすぐな心を持ち、少しずつ「見ること」の感性を磨いていきます。
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見どころ4:葛藤が交差する魅力的な登場人物たち
この作品がここまで心に残るのは、フェルメールとグリートだけではありません。登場するすべての人物が、それぞれに「物語」を抱えているからです。
まず、フェルメールの妻。夫の心が絵に、そしてグリートに向いていることを察し、嫉妬や不安に駆られていきます。その感情は決して一方的ではなく、夫に愛されたいと願う切なさや、プライドとの間で揺れる心が丁寧に描かれています。彼女は物語の静かな要とも言える存在です。

グリートに恋心を抱く青年ピーター。精肉店の若者らしい素朴さと情熱を持ち、グリートにさりげなく思いを伝えます。演じるのは、のちにアカデミー賞俳優となるキリアン・マーフィー。この頃から彼の魅力は光っていて、二人のシーンは、まさに青春そのもの。底抜けの若さと美しさ溢れる瞬間が描かれます。

また、フェルメールの娘。グリートを困らせるようないたずらをする姿は子どもらしい反抗とも取れますが、厳格な家庭環境の中で愛情を求める彼女の姿が、切なく映ります。人は環境によって育まれる――そんな視点を与えてくれる存在です。
そして忘れてはならないのが、フェルメールのパトロン、ファン・ライフェン。史実上にも名を残す彼は、フェルメールを経済的に一番支えた重要人物。ただし、映画の中では金と権力を背景に、絵も人間関係も思いのままに操ろうとする彼の存在が、ある種の「悪役」として物語を引き締めます。
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【史実とフィクションのはざまで】
この映画は、歴史小説をもとにしたフィクションです。しかし、「もしも」の想像をかき立てる、その魅力は尽きません。
では、実際の《真珠の耳飾りの少女》は、誰を描いたのでしょうか。

この問いには、今なお明確な答えはありません。オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館は「架空の少女説」を支持しており、実在のモデルではなく、理想化された美の象徴として描かれたというのが有力な説です。
一部では、フェルメールの娘マリアがモデルという説もありますが、決定的な証拠は残っていません。むしろ、正体がわからないからこそ、人々の想像力を刺激し、物語が生まれるのです。
描かれたのは今からおよそ400年前――日本で言えば江戸時代初期。遠く離れた時代と場所に生きた人々の感情や生活を、今も私たちはアートを通じて感じることができます。
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おわりに
《真珠の耳飾りの少女》という一枚の絵をめぐって、こんなにも深い物語が紡がれるなんて…。
この映画を観てからというもの、フェルメールという画家、そしてこの名画への関心がぐっと深まりました。
静かで、控えめで、それでいて確かな情熱を湛えたこの作品は、芸術に興味がある方はもちろん、映画としてのドラマ性を味わいたい方にも、心からおすすめしたい一本です。
「絵画の裏にある物語」を感じたとき、アートがもっと身近で、もっと面白くなる――そんな気づきを与えてくれる映画でした。
次にこの絵と再会するときは、きっと違う感情が湧き上がってくると思います。絵にはその一枚一枚にドラマがある。これからもたくさんの絵画と出会って、そのドラマを感じてみたい・・・
きいこ